中小企業の経営者にとって、役員報酬の設定は法人税・所得税・社会保険料の三者に影響する重要な意思決定です。特に社会保険料は報酬額によって大きく変わり、標準報酬月額の設定を誤ると年間数十万円単位で損をすることがあります。本記事では、役員報酬と社会保険料の関係と、手取りを最大化する設定方法を解説します。

役員報酬が決まると何が変わるか

役員報酬の金額は、以下の3つの費用に直接影響します。

  • 法人税:役員報酬は法人の損金に算入されるため、報酬が高いほど法人税の課税所得が減少します
  • 所得税・住民税:役員報酬は個人の給与所得となり、額が高いほど累進課税が適用されて個人の税負担が増えます
  • 社会保険料:健康保険・厚生年金の保険料は標準報酬月額に基づいて計算され、会社と個人で折半負担します

「役員報酬を上げれば手取りが増える」とは限らず、所得税・社会保険料の増加分が役員報酬の増額分を上回ることがあります。最適な設定は個人の状況によって異なります。

標準報酬月額の仕組みと保険料への影響

健康保険・厚生年金の保険料は「標準報酬月額」という等級制の区分に基づいて計算されます。標準報酬月額は、実際の報酬月額(4月・5月・6月の平均)を基に年1回決定されます(定時決定)。

等級の上限:厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円(令和6年現在)で、この上限を超えても保険料は増えません。報酬月額が65万円を超えると、増額分に対して社会保険料の負担増なく手取りが増える計算になります。

保険料率の目安(神奈川県の場合):健康保険料率は約9.98%(2026年)、厚生年金保険料率は18.3%(固定)、合計で約28.28%となります。この約半分(14%強)が個人負担、残り半分が会社負担です。役員の場合は会社が社会保険料の会社負担分も実質的に負担しているため、個人手取りへの影響を計算する際は個人負担分のみを考慮します。

手取りを増やす報酬設定の3つの考え方

考え方①:月額報酬を低く抑えて事前確定届出給与(役員賞与)を活用する:月額報酬を低く設定すると標準報酬月額が下がり、毎月の社会保険料負担が軽減されます。その分を「事前確定届出給与」として賞与の形で支給すれば、賞与に対する社会保険料の計算はその月の賞与額×保険料率となり、年間の上限額の制限(健康保険:573万円、厚生年金:150万円/月)の範囲内で最適化できます。

考え方②:標準報酬月額65万円を目標に設定する:月額報酬65万円を超えると厚生年金の保険料が頭打ちになるため、ここを超えた報酬額は社会保険料の追加負担なく受け取れます。法人税・所得税とのバランスを考えながら、この水準を目安に検討する方法があります。

考え方③:配偶者への役員報酬分散:実質的に経営に参加している配偶者を役員として登記し、報酬を分散する方法です。配偶者の給与所得控除を活用することで、世帯全体の税負担を減らせます。ただし、配偶者の役員としての実態(取締役会への出席記録など)が必要です。

役員報酬変更の手続きとタイミング

定期同額給与として認定されるためには、通常、事業年度開始の日から3か月以内に役員報酬の額を決定し、その後1年間は変更しないことが原則です。変更するには株主総会(または取締役会)での決議が必要です。

また、事前確定届出給与を活用する場合は、支払い前に「事前確定届出給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。届出と異なる額を支給すると、全額が損金不算入になるリスクがあるため、届出通りの支給が必須です。

まとめ

役員報酬と社会保険料の最適化は、法人税・所得税・社会保険料の三者を総合的に考慮する必要があります。一般的には月額報酬を適切な水準に抑え、不足分を事前確定届出給与で補う方法が有効ですが、最適解は売上規模・利益水準・家族構成・将来の年金受給額など個別の事情によって異なります。シミュレーションを通じて最適な設定を検討することをお勧めします。

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