個人事業主の節税は、確定申告の直前に慌てて経費を探すよりも、年の途中から制度を計画的に使うほうが大きな効果が出ます。所得税は所得が増えるほど税率が上がる仕組みのため、同じ節税策でも、所得の水準によって効果は変わります。本記事では、税理士法人横浜キャピタル税務事務所が、個人事業主が使える代表的な節税策10個を「所得から差し引けるもの」「経費を正しく計上するもの」「税額計算を有利にするもの」に分けて整理し、それぞれの要件と注意点を解説します。
結論:まずは「青色申告」と「掛金が控除になる制度」から
個人事業主の節税で、効果が大きく、多くの方に当てはまるのは、青色申告特別控除、小規模企業共済、iDeCoの3つです。いずれも制度に沿って手続をするだけで所得を減らせるため、まだ利用していない場合は最初に検討する価値があります。そのうえで、家族への給与、経営セーフティ共済、減価償却の特例などを、事業の状況に応じて組み合わせていくのが基本の考え方です。
個人事業主が使える節税策10選(一覧)
| 節税策 | 効果の内容 | 主な要件・上限 |
|---|---|---|
| ① 青色申告特別控除 | 所得から最大65万円を控除 | 青色申告の承認、複式簿記、e-Tax等 |
| ② 小規模企業共済 | 掛金の全額を所得控除 | 月1,000円〜70,000円 |
| ③ iDeCo | 掛金の全額を所得控除 | 国民年金第1号被保険者は国民年金基金等と合わせて月68,000円まで |
| ④ 社会保険料控除の漏れ防止 | 家族分の国民年金・国民健康保険料も控除 | 本人が実際に支払っていること |
| ⑤ 青色事業専従者給与 | 家族への給与を経費にできる | 事前の届出、専ら事業に従事していること |
| ⑥ 経営セーフティ共済 | 掛金を必要経費にできる | 月5,000円〜200,000円、積立上限800万円 |
| ⑦ 少額減価償却資産の特例など | 一定額未満の備品を購入年に経費化 | 青色申告の中小事業者など |
| ⑧ 家事按分 | 自宅兼事務所の家賃・光熱費等の一部を経費に | 事業で使っている割合の合理的な説明 |
| ⑨ 消費税の計算方法の選択 | 簡易課税・2割特例で納税額を抑える | 届出期限、売上規模の要件 |
| ⑩ 法人成りの検討 | 所得が大きくなった場合の税率差を活用 | 設立・維持コストとの比較 |
所得から差し引ける節税策
① 青色申告特別控除(65万円・55万円・10万円)
青色申告の承認を受け、複式簿記で記帳して貸借対照表と損益計算書を添付し、期限内に申告すると55万円、さらにe-Taxで申告するか優良な電子帳簿の要件を満たすと65万円の控除を受けられます。簡易な帳簿の場合は10万円です。青色申告にすると、赤字を翌年以降3年間繰り越せるなどの特典もあります。新たに青色申告にする場合は、原則としてその年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)に承認申請書を提出します。
② 小規模企業共済
個人事業主や小規模企業の役員のための退職金制度で、掛金は月1,000円から70,000円まで選べ、全額が所得控除になります。年額にすると最大84万円です。廃業時などに共済金として受け取る場合は、退職所得や公的年金等の雑所得として扱われ、税負担が比較的軽くなる仕組みです。ただし、加入期間が短いうちに任意解約すると、受取額が掛金の総額を下回ることがあります。
③ iDeCo(個人型確定拠出年金)
自分で掛金を拠出して運用する年金制度で、掛金は全額が所得控除になり、運用益も非課税です。国民年金の第1号被保険者である個人事業主の掛金上限は、国民年金基金や国民年金の付加保険料と合わせて月68,000円です。原則として60歳まで引き出せないため、生活資金とは分けて考える必要があります。
④ 社会保険料控除の漏れを防ぐ
国民健康保険料や国民年金保険料は、全額が社会保険料控除の対象です。生計を一にする配偶者や子の国民年金保険料を本人が支払っている場合は、その分も本人の控除に含められます。控除証明書や納付記録を年末までに揃えておきましょう。
経費を正しく計上する節税策
⑤ 青色事業専従者給与
生計を一にする配偶者や親族が事業に従事している場合、届出をすれば、その給与を必要経費にできます。対象となるのは、その年の12月31日時点で15歳以上で、年間6か月を超えて専ら事業に従事している家族です。届出書は、原則として経費にしたい年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合や新たに専従者がいることになった場合は、その日から2か月以内)に提出し、届け出た金額の範囲内で、仕事の内容に見合った金額を支給します。専従者給与を受ける家族は、配偶者控除や扶養控除の対象から外れる点に注意してください。
⑥ 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
取引先の倒産に備える共済で、掛金は月5,000円から200,000円まで、積立額は800万円が上限です。個人事業主の場合、掛金は事業所得の必要経費になります。一方で、解約して受け取る解約手当金は事業所得の収入になるため、税金がなくなるわけではなく「課税のタイミングをずらす」制度です。加入期間が短いうちに解約すると、受取額が掛金を下回ります。また、解約後に再び加入した場合、一定期間は掛金を経費にできない取扱いがあります。
⑦ 少額の備品は購入年に経費化
パソコンや事務机などの備品は、原則として耐用年数にわたって減価償却します。ただし、取得価額10万円未満のものは購入した年に全額を経費にでき、20万円未満のものは3年間で均等に経費にする方法も選べます。さらに、青色申告をしている中小事業者には、一定額未満の資産を購入年に全額経費にできる少額減価償却資産の特例があります(年間の合計額に上限あり)。特例の対象金額や適用期限は税制改正で見直されることがあるため、購入前に最新の要件を確認しましょう。
⑧ 家事按分
自宅の一部を事務所にしている場合は、家賃や電気代、通信費などを、事業で使っている割合に応じて経費にできます。床面積や使用時間など、割合の根拠を説明できるようにしておくことが大切です。根拠のない高い割合は、税務調査で否認されやすい項目です。なお、個人事業主の交際費には法人のような損金算入の上限はありませんが、事業との関連性を説明できることが前提です。
税額の計算を有利にする節税策
⑨ 消費税の計算方法の選択
消費税の課税事業者でも、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度を選べます。業種ごとのみなし仕入率で納税額を計算するため、経費の少ないサービス業などでは有利になることがあります。原則として、適用を受けたい年の前年12月31日までに届出が必要です。また、免税事業者からインボイス登録をした個人事業者は、売上の消費税の2割を納める「2割特例」を、2026年分の申告まで利用できます。2027年分以降の計算方法は、早めに検討しておきましょう。
⑩ 法人成りの検討
所得税は所得が増えるほど税率が上がるため、事業所得が大きくなると、法人を設立して役員報酬を受け取る形のほうが、税負担の合計が軽くなる場合があります。一方で、法人には赤字でもかかる住民税の均等割や社会保険料、決算申告の費用などがかかります。法人の維持費は合同会社の年間維持費で、設立後に必要な手続は会社設立後にやるべき税務手続で解説しています。
節税でよくある間違い
- 税金を減らすために不要な買い物をする:経費を10万円増やしても、減る税金はその一部です。手元のお金は減ります
- ふるさと納税を節税策と考える:自己負担2,000円で返礼品を受け取れる制度で、税負担そのものが大きく減るわけではありません。確定申告をする個人事業主はワンストップ特例を使えないため、申告書に記載が必要です
- 私的な支出を経費に含める:家族の食事代や私用の車の費用などを経費にすると、税務調査で否認され、加算税の対象になります
- 期限のある届出を忘れる:青色申告や専従者給与、簡易課税は、届出が遅れるとその年に適用できません
年内にやっておきたい節税チェックリスト
- 青色申告の承認を受けているか、65万円控除の要件(複式簿記・e-Tax)を満たしているか
- 小規模企業共済・iDeCoの掛金額が、資金繰りと節税効果のバランスに合っているか
- 家族への給与について、専従者給与の届出と勤務実態の記録があるか
- 年内に必要な備品の購入時期と金額を確認したか
- 家事按分の割合と根拠をメモしているか
- 国民年金・国民健康保険の控除証明書や納付記録を揃えたか
- 来年以降の消費税の計算方法(簡易課税の届出期限)を確認したか
よくある質問
Q. 白色申告から青色申告に切り替えるには、いつまでに何をすればよいですか?
A. 青色申告にしたい年の3月15日までに、税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」を提出します。その年の1月1日から複式簿記で記帳する必要があるため、会計ソフトの準備もあわせて進めましょう。
Q. 小規模企業共済とiDeCoは両方に加入できますか?
A. 両方に加入でき、それぞれの掛金が所得控除の対象になります。ただし、どちらも原則として長期間お金を引き出せないため、事業の運転資金に余裕がある範囲で掛金を決めることが大切です。
Q. 個人事業主の確定申告を税理士に頼むと、費用はどのくらいですか?
A. 当事務所の個人の税務顧問は、売上3,000万円未満の場合で年額198,000円(税込)です。料金の詳細は料金案内を、横浜エリアの相場や選び方は横浜の顧問税理士の費用相場と選び方をご覧ください。
まとめ
個人事業主の節税は、青色申告特別控除、小規模企業共済、iDeCoを土台に、家族への給与、経営セーフティ共済、備品の経費化、家事按分などを事業の状況に合わせて組み合わせるのが基本です。多くの制度には届出の期限や要件があるため、確定申告の直前ではなく、年の途中から準備を進めることが効果を高めるポイントです。
税理士法人横浜キャピタル税務事務所は、横浜市西区浅間町(横浜駅徒歩圏)にあり、弁護士法人横浜キャピタル法律事務所と同一グループの税理士法人です。個人事業主の方の確定申告や節税のご相談、法人成りの検討まで対応しています。相談料は料金案内ページをご覧ください。ご相談は対面またはZoomなどのオンラインで承っています。



