決算が近づくと、保険会社から「法人保険で節税しませんか」という提案を受けることがあります。かつては保険料の全額や半額を損金にできる商品が多くありましたが、2019年のルール改正により、節税を目的とした加入の効果は大きく縮小しました。本記事では、改正後の損金算入ルールを整理したうえで、法人保険を「節税」ではなく「課税の繰延べ」として正しく使うための出口戦略を税理士が解説します。
2019年改正で何が変わったのか
2019年7月8日以後に契約した定期保険や第三分野保険(医療保険など)で、保険期間が3年以上のものは、最高解約返戻率によって保険料の損金算入割合が決まるようになりました。最高解約返戻率とは、契約期間中に解約した場合の返戻率のうち、最も高い率のことです。
| 最高解約返戻率 | 保険料の扱い(資産計上期間中) |
|---|---|
| 50%以下 | 全額損金 |
| 50%超〜70%以下 | 40%を資産計上、60%を損金 |
| 70%超〜85%以下 | 60%を資産計上、40%を損金 |
| 85%超 | 当初10年間は保険料×最高解約返戻率×90%を資産計上 |
解約返戻率が高い、つまり貯蓄性の高い保険ほど損金にできる割合が小さくなる仕組みです。資産計上した部分は、保険期間の後半に入ってから段階的に取り崩して損金にしていきます。なお、最高解約返戻率が70%以下で、被保険者1人あたりの年換算保険料が30万円以下の場合は、全額を損金にできます。
法人保険の節税は「課税の繰延べ」にすぎない
法人保険を解約して解約返戻金を受け取ると、その金額から資産計上している額を差し引いた部分が益金になります。つまり、保険料を支払った年に損金にした分は、解約した年に利益として戻ってくることになります。
さらに、解約返戻金は支払った保険料の総額より少ないことがほとんどです。利益が出ている年に解約してしまうと、「税金は先送りしただけで、保険料の一部を失った」という結果になりかねません。支払う保険料と戻る返戻金、損金になる額と益金になる額を、加入時にシミュレーションしておくことが欠かせません。
簡単な例で考えてみます。最高解約返戻率が80%の定期保険に年間100万円の保険料を払う場合、資産計上期間中は60万円が資産、40万円が損金です。法人税等の実効税率を約30%とすると、損金40万円による税負担の軽減は約12万円にとどまります。一方で、将来の解約時には返戻金と資産計上額の差額が益金となります。「100万円払えば100万円経費になる」わけではないことを、提案を受けた段階で確認しておきましょう。
効果が出るのは「出口」を決めて加入したとき
法人保険が本当に役立つのは、解約返戻金を受け取る時期に、それを打ち消す大きな費用や損失が発生する場合です。代表的なのが、次のようなケースです。
- 役員退職金の原資:社長の退任時期に合わせて解約し、退職金の損金と返戻金の益金を相殺する
- 設備の更新や大規模修繕:多額の修繕費や除却損が出る年に解約する
- 業績の悪化時:赤字の年に解約し、資金繰りと税負担を同時に和らげる
特に役員退職金は、勤続年数や最終報酬月額をもとに損金にできる金額の目安が決まるため、退任の時期と保険の返戻率がピークになる時期を合わせて設計しておくと、効果を最大化できます。
反対に、出口を決めずに加入した保険は、解約のタイミングを逃して返戻率が下がり始めたり、利益の出ている年に資金が必要になって解約せざるを得なくなったりしがちです。加入時には「いつ・何のために解約するのか」を決め、その時期の返戻率と益金の額を確認しておきましょう。
節税以外の本来の目的も見直す
法人保険には、社長に万が一のことがあった場合に、借入金の返済や事業の継続、相続人からの株式買取りの資金を確保するという本来の役割があります。節税効果だけで加入すると、保障額が会社の実情に合っていないことも少なくありません。すでに加入している保険についても、現在の借入額や事業承継の計画と照らし合わせて見直すことをおすすめします。
また、2019年7月7日以前に契約した保険には、改正前のルールがそのまま適用されます。過去に全額損金型の保険に加入している場合、その保険を解約して新しい保険に切り替えると、改正後のルールで損金算入割合が下がることになります。見直しの際は、既存の契約を残すか切り替えるかを、税務面と保障面の両方から比較することが大切です。
まとめ
2019年の改正で、法人保険は最高解約返戻率に応じて損金算入割合が決まるようになり、貯蓄性の高い保険ほど損金にできる額は小さくなりました。法人保険の節税は課税の繰延べであり、効果を出すには、退職金の支給や大規模修繕など、解約時の益金を打ち消す出口を決めて加入することが重要です。保険を含めた決算対策の設計は、決算対策・節税サービスへご相談ください。


