設立費用や維持費の安さから合同会社で起業したものの、取引先の拡大や資金調達、将来の事業承継を考えて「株式会社にしておけばよかった」と感じる経営者は少なくありません。合同会社は、解散して新たに設立し直さなくても、組織変更という手続きで株式会社に移行できます。本記事では、組織変更にかかる費用や期間、税務上の手続きに加えて、他ではあまり触れられない相続・事業承継への影響について税理士が解説します。
組織変更の流れと期間の目安
合同会社から株式会社への組織変更は、おおむね次の流れで進みます。
- 組織変更計画の作成(新しい商号・目的・役員・株式の割当てなどを定める)
- 総社員の同意(定款に別段の定めがなければ全員の同意が必要)
- 債権者保護手続(官報公告と、知れている債権者への個別の催告)
- 効力発生日の到来
- 効力発生日から2週間以内に、合同会社の解散登記と株式会社の設立登記
債権者保護手続では、1か月以上の異議申述期間を設ける必要があります。官報の掲載申込みから掲載までの期間も含めると、準備開始から登記完了まで1.5〜2か月程度を見込んでおくとよいでしょう。
組織変更にかかる費用
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 登録免許税(合同会社の解散) | 3万円 |
| 登録免許税(株式会社の設立) | 資本金×0.15%(最低3万円) |
| 官報公告の掲載費用 | 3万〜4万円程度 |
| 司法書士への報酬(依頼する場合) | 5万〜10万円程度 |
資本金が2,000万円以下であれば、登録免許税は合計6万円です。組織変更後は、株式会社として毎年の決算公告が義務になり、官報で行う場合は年間6万円前後の費用が加わる点も考慮しておきましょう。
さらに、株式会社では取締役の任期(非公開会社なら最長10年)ごとに役員の重任登記が必要となり、その都度登録免許税がかかります。合同会社には役員の任期がないため、これも組織変更によって新たに生じる維持コストです。
税務上は「同じ会社」が続く|届出は異動届で足りる
組織変更をしても、法人格は変わらず同一の会社として存続します。そのため、組織変更をきっかけに法人税や消費税が課税されることはなく、事業年度もそのまま継続します。解散・清算によるみなし事業年度も生じません。法人番号も変わらないため、インボイスの登録番号もそのまま使えます。
手続きとしては、登記完了後に税務署・神奈川県の県税事務所・市区町村へ「異動届出書」を提出し、登記事項証明書の写しを添付します。適格請求書発行事業者の登録事項(名称)の変更届出や、年金事務所、金融機関の口座名義、許認可の変更も忘れずに行いましょう。
見落としがちな相続・事業承継への影響
組織変更を検討する理由として、実は税務の面で重要なのが社長に相続が起きたときの扱いです。合同会社の社員が亡くなると、定款に特別な定めがない限り、その社員は退社したものとされ、相続人は会社の持分をそのまま引き継げません。相続人が取得するのは「持分の払戻しを請求する権利」となり、会社は払戻しのために多額の資金を用意しなければならないことがあります。
一方、株式会社であれば、株式はそのまま相続人に承継され、事業承継税制などの制度も利用しやすくなります。合同会社のままでも定款に「相続人が持分を承継できる」旨を定める方法はありますが、将来の承継を見据えるなら、組織変更とあわせて検討する価値があります。
また、持分の払戻しが行われると、払い戻された金額のうち出資額を超える部分がみなし配当として所得税の課税対象となる場合もあり、相続税とあわせて税負担が重くなることがあります。そのため、社長の年齢や後継者の有無によっては、早めに対策を取っておくことが重要です。
組織変更を検討すべきタイミング
組織変更は、いつ行っても課税は生じませんが、実務上は次のようなタイミングで検討されることが多くなっています。
- 大手企業との取引開始や、入札参加の条件として株式会社であることを求められたとき
- 外部の投資家から出資を受ける、または金融機関からの融資枠を広げたいとき
- 従業員の採用を本格化し、会社としての信用力を高めたいとき
- 後継者への事業承継を具体的に考え始めたとき
決算期の直前は、決算作業と登記手続きが重なり負担が大きくなるため、決算期から離れた時期に効力発生日を設定すると、スムーズに進められます。また、組織変更と同時に商号や本店所在地、事業目的を変更することもできるため、将来の事業展開を見据えて定款全体を見直す機会にするとよいでしょう。
まとめ
合同会社から株式会社への組織変更は、解散・再設立をせずに1.5〜2か月程度で行え、登録免許税は最低6万円からです。法人格は同一のため課税は生じず、税務上は異動届の提出で足ります。一方で、社長の相続時に持分が承継されないという合同会社特有の問題は、組織変更によって解消できます。組織変更の手続きや、変更後の税務・役員構成の設計は、法人設立サポートへご相談ください。



