個人事業主が会社を設立して事業を引き継ぐ「法人成り」をした年は、法人の設立手続きに意識が向きがちです。しかし、その年の1月1日から事業を廃止した日までの個人事業の所得については、翌年3月15日までに個人として最後の確定申告を行う必要があります。この最後の申告には、通常の年にはない特有のルールがあり、知らないと税金を多く払ってしまいます。本記事では、法人成りした年の個人の確定申告で見落としやすいポイントを税理士が解説します。
ポイント1|個人事業の「廃止」の届出を忘れない
法人成りをしたら、個人事業を廃止したことを税務署などに届け出ます。主な届出は次のとおりです。
- 個人事業の開業・廃業等届出書(廃止後1か月以内・税務署)
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書(廃止した年の翌年3月15日まで)
- 給与支払事務所等の廃止届出書(従業員に給与を払っていた場合)
- 事業廃止届出書(消費税の課税事業者だった場合)
- 個人事業税の廃業届(神奈川県の県税事務所)
特に消費税の届出を出し忘れると、課税事業者のまま扱われ、翌年以降も申告書が送られてくることがあります。法人の設立届と同じタイミングでまとめて提出しておくと安心です。
また、個人事業で使っていた屋号の銀行口座やクレジットカード、事業用の携帯電話などの契約も、法人名義への切替えが必要です。切替えが遅れると、法人の経費を個人の口座から支払う状態が続き、どちらの取引かが分かりにくくなります。法人成りの前後は、口座ごとに「いつまで個人、いつから法人」と区切りを決めておきましょう。
ポイント2|青色申告特別控除は月割りされない
年の途中で事業を廃止すると、減価償却費は事業を営んでいた月数で按分します。一方で、青色申告特別控除(最大65万円)は月割りされず、要件を満たせば全額を控除できます。たとえば6月に法人成りして個人事業の期間が5か月しかなくても、e-Taxでの申告や帳簿の電子保存などの要件を満たせば65万円の控除が受けられます。最後の年だからと帳簿付けを簡略化すると、この控除を失ってしまうので注意しましょう。
ポイント3|翌年の個人事業税を「見込み」で経費にできる
独自の注意点として、個人事業税の扱いがあります。個人事業税は、前年の所得をもとに翌年課税されるため、通常は納付した年の経費になります。ところが事業を廃止すると、廃止した年の所得にかかる個人事業税は、翌年に経費として計上する機会がありません。
そこで、事業を廃止した年の確定申告では、翌年に課される個人事業税の見込額を、その年の必要経費に算入できる特例が認められています。見込額は「(事業所得+見込額)×税率」の形で計算します。この計算を忘れると、本来経費にできたはずの数十万円が経費にならないまま終わってしまいます。
ポイント4|法人に引き継ぐ資産と債権債務の整理
在庫商品や車両、備品などを法人に引き継ぐ場合は、個人から法人への譲渡として扱うのが一般的です。在庫を法人に売れば個人事業の売上となり、車両などの固定資産を売れば譲渡所得として申告します。時価とかけ離れた価格で取引すると、個人・法人のどちらかで課税関係が生じるおそれがあるため、帳簿価額や中古市場の相場を参考に価格を決めましょう。
また、個人事業時代の売掛金や買掛金を、法人がそのまま回収・支払いすると、個人と法人の取引が混ざってしまいます。原則として、個人の債権債務は個人で精算するか、引継ぎの契約を明確にしておくことが大切です。
事務所や店舗を個人名義のまま法人に使わせる場合は、法人との間で賃貸借契約を結び、法人から個人へ家賃を支払う形にするのが一般的です。この場合、個人側では法人成り後の家賃収入が不動産所得となり、翌年以降も個人の確定申告が必要になります。「法人成りしたから個人の申告は今年で終わり」と思い込まず、個人に残る所得がないかを確認しておきましょう。
さらに、消費税の課税事業者だった場合は、個人事業の最後の期間についても消費税の申告が必要です。法人に在庫や車両を売却した代金も、個人の課税売上に含まれる点を忘れないようにしましょう。
ポイント5|廃止後に発生した費用も経費にできる
事業を廃止した後に、個人事業時代の取引に関連する費用や損失が発生することがあります。たとえば、廃止後に回収できなくなった売掛金(貸倒れ)などです。こうした費用は、事業を廃止した年(または前年)の必要経費に算入できるとされており、申告後に発生した場合は、更正の請求で税金の還付を受けられます。
まとめ
法人成りした年は、個人事業の最後の確定申告が必要です。廃止の届出を漏れなく提出し、青色申告特別控除は月割りされないことを押さえたうえで帳簿を整えましょう。翌年の個人事業税の見込控除や、廃止後の費用の扱いなど、最後の年ならではのルールもあります。個人と法人の申告を一貫して任せたい方は、税務顧問・税務申告サービスへご相談ください。



