中小企業オーナーの事業承継において、自社株式の評価額が高いと多額の相続税・贈与税が発生し、後継者が納税のために株式を売却せざるを得ないケースもあります。これを救済する制度が「事業承継税制(特例措置)」です。一定の要件を満たせば、自社株式に係る贈与税・相続税が100%猶予・最終的に免除される強力な制度ですが、適用には複雑な手続きと長期的な要件維持が必要です。本コラムでは、横浜キャピタル税務事務所が、特例措置の要件と落とし穴を解説します。
事業承継税制とは
事業承継税制は、後継者が先代経営者から非上場会社の株式等を贈与・相続によって取得した場合に、その株式に係る贈与税・相続税の納税が一定の要件のもと猶予・免除される制度です。一般措置と特例措置の2種類があり、特例措置のほうが大幅に要件が緩和されています。
一般措置と特例措置の違い
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 納税猶予の対象株式 | 発行済議決権株式の2/3まで | 全株式 |
| 納税猶予割合 | 贈与100%、相続80% | 贈与・相続ともに100% |
| 後継者の数 | 1人 | 最大3人 |
| 雇用維持要件 | 5年平均で8割維持 | 満たせない場合も理由報告で継続可 |
| 適用期限 | 恒久制度 | 2027年12月31日までの贈与・相続 |
| 事前計画の提出 | 不要 | 必要(2027年9月30日まで) |
特例措置は2018年から2027年末までの時限措置です。適用を受けるためには、2027年9月30日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが必須です。期限を過ぎると一般措置しか使えなくなり、納税負担が大きく増えます。
特例措置の主要な要件
1. 会社の要件
- 非上場の中小企業(中小企業基本法上の中小企業者)であること
- 風俗営業会社・資産保有型会社・資産運用型会社に該当しないこと
- 常時使用する従業員が1人以上いること
- 総収入金額がゼロ超であること
2. 先代経営者の要件
- 贈与・相続の直前まで会社の代表者であったこと
- 贈与時点で代表を退任していること(贈与の場合)
- 同族関係者と合わせて発行済議決権株式の50%超を保有し、後継者を除いて筆頭株主であったこと
3. 後継者の要件
- 贈与時に18歳以上、相続時に成人していること
- 贈与の場合、贈与の直前まで3年以上役員に就任していること
- 贈与・相続後に代表者となること
- 贈与・相続後に同族関係者と合わせて発行済議決権株式の50%超を保有し、筆頭株主となること
納税猶予が打ち切られるケース
事業承継税制は、適用後も継続的な要件維持が必要で、要件を満たせなくなると猶予されていた税額に利子税を加えて納付することになります。主な打切事由は以下です。
1. 後継者が代表者でなくなった場合
適用後5年間(経営承継期間)は、後継者が代表者を続ける必要があります。健康問題や家族問題で代表を退いた場合、原則として猶予打切となります。
2. 株式を譲渡した場合
適用を受けた株式を売却・贈与した場合、その譲渡部分に対応する税額の納付が必要となります。M&Aや資金調達のために株式を動かしたい場合、慎重な検討が必要です。
3. 資産保有型会社・資産運用型会社になった場合
事業活動を縮小し、賃貸不動産・有価証券などの資産運用が中心の会社になると、適用要件を満たさなくなります。事業のリストラや事業転換時に注意が必要です。
事業承継税制の落とし穴
1. 制度の長期コミットメント
納税猶予は、最終的には後継者の死亡などで免除されますが、それまで何十年にもわたって要件を維持し続ける必要があります。経営環境が変化した場合の柔軟な対応が制限されるため、適用前に長期見通しを慎重に検討する必要があります。
2. 後継者間の紛争リスク
特例措置では最大3人の後継者に株式を承継できますが、複数の後継者間で経営方針が対立すると、株主代表訴訟・経営権争いなどに発展するリスクがあります。事業承継税制適用の際は、株主間契約の締結や経営方針の文書化を併せて行うことが重要です。
3. 他の相続人の遺留分との調整
後継者にすべての株式を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害し、相続発生後に遺留分侵害額請求を起こされる可能性があります。経営承継円滑化法の遺留分特例(除外合意・固定合意)の活用も検討が必要です。
まとめ
事業承継税制(特例措置)は、自社株式に係る税負担を100%猶予・免除できる強力な制度ですが、適用要件と継続要件が複雑で、長期的なコミットメントが必要です。2027年12月31日までの時限措置のため、適用を検討するなら早めの計画策定が必須です。横浜キャピタル税務事務所では、横浜駅徒歩圏で事業承継のご相談に対応しています。


